八十田侑里さん
専攻:Theatre Arts
UPAAによるインタビューシリーズ。今回は、ドゥルー大学(Drew University)に進学された八十田侑里さんにお話を伺います。ドゥルー大学は、アメリカ合衆国 ニュージャージー州 マディソンにあるリベラルアーツ系の大学で、少人数制クラスと各学生のニーズに合ったきめ細やかな教育で知られています。高校3年まではまったく異なる進路をめざしていた八十田さんですが、あるきっかけで大きな方向転換を決断されました。どのような経緯で今の道を選び、どのような学生生活を送っているのか、詳しく伺ってみました。
八十田侑里さんプロフィール
目次
将来は、医師になるものと思っていました。 飽きっぽい性格を、メリハリのある学習でカバー。 理系だった私が、毎週100ページの台本を読む日々へ。 日本を出ると、本当にいろいろな人がいることを実感します。八十田さんのご専攻はTheatre Arts、つまりダンス、演劇、ミュージカルなどに代表される「舞台芸術」ということですよね。以前からこの分野に関心があったのですか?
八十田さん
小さな頃から、将来自分は医師になるものだと思って過ごしてきました。そのために塾にも通っていましたし、自分なりに頑張ってきたんですが、高3になった時、ふと「このまま進路を決めてしまっていいのかな」と思ったんです。
私が通っていた湘南白百合はチャレンジ精神の旺盛な友人が多くて、「将来は会社を作りたい」とか「海外で仕事をしたい」とか、さまざまな夢にチャレンジしようとしている人たちがいました。
周りの人ががんばっていると、刺激を受けますよね。
八十田さん
当時、私は自分の将来について考えこんだりしていた時期で、そんな友人たちを見ているうちに、「18歳で自分の人生を決めてしまうなんて、もったいないかもしれない」「私には医師になる以外の道もあるのではないか」と思うようになったんです。
高校時代がコロナ禍と重なっていたことも関係しているのかもしれません。閉じ込められていた分余計に、海外に出てもっと視野を広げたいと思うようになりました。世界はひろいし、日本だけではありませんから。担任の先生と相談して、リベラルアーツ系の大学が適しているのでは、ということになり、ドゥルー大学を紹介してもらったんです。
コロナ禍はいろんな意味で人生が変わる体験でしたね。最終的にTheatre Artsを選んだのはどうしてでしょうか。
八十田さん医師以外の道を考えた時、自分が本当に興味あることは何だろう、と自問しました。小さな頃からダンスを習っていて、将来的には人前に出る仕事が自分にはあっていると思っていましたし、海外の大学に行くのであれば、日本ではあまり学べない専攻を選びたいとも考えていました。そういったことを総合的に考えて、アメリカならではの演劇の視点を学びたいと思い、Theatre Artsを選びました。
出願を決めたのは、3年生になってからですよね。
八十田さんはい、本格的に英語の勉強をはじめたのも、高3の夏からでした。最初のIELTSは5.0、TOEFL iBTは45くらいだったので、とにかく英語力を上げようと集中して勉強しました。最終的にTOEFLは60くらい、IELTSは最終的に6.5くらいのスコアが取れました。英語学習は楽しかったので、長時間勉強しても苦になることは全くなかったです。
UPAA短期間ですごい成長ですね。勉強の仕方で、何か工夫したことなどありますか?
八十田さん
私は集中力はあるのですが、飽きっぽい性格でもあるので、英語学習もメリハリをつけるようにしました。
集中してやる時は1日に6~8時間勉強する時もありましたが、一方で、疲れてあまり勉強できない日もあります。そういうときは自分の好きなことや興味のあること、たとえば、心理学がテーマのTED Talkや英語の映画を見たり、BBCやPodcastを聞いたりして、何らかの形で毎日英語に触れるようにしていました。
自己分析がしっかりできていて、柔軟に対応できるところが、八十田さんの強みですね。
八十田さん問題集はひと通り問題を解いてから、間違ったところをもう一度学習して。反復学習ですね。あとは、語彙を増やすために英語で文章を書いたり、フレーズの勉強をしたり。リーディングは、毎日読むこと、問題を解くことを心掛けて勉強していました。
UPAAよく受験英語と実践は違うと言われます。1年間アメリカで暮らしてみて、いかがでしょうか。受験勉強とは大分違いますか?
八十田さん日本の受験英語では文法をしっかりと勉強しますよね。こちらの大学に来て、それが本当によく役立っているなと感じます。ライティングの授業では、毎週ひたすら6-7ページのエッセイを書かされますし。
UPAAどんな授業なんでしょうか?
八十田さん新聞記事やブログ、インターネットのニュース記事などから2、3選んで、要約したり記事を比較したりして自分の意見をまとめます。たとえば、ロボットのトピックなら、現在のテクノロジーの進化や、テクノロジーの変化により人間の仕事が減る現状との比較、といった感じです。ネイティブの人たちもよく文法を間違えますし、無駄どころか、受験勉強をしていてよかったなと思います。あとは付け加えるなら、やはり語彙力があるとよいですね。エッセイを書く時に表現の幅が広がりますし、英語を読む時も語彙力があったほうが理解が深まると思います。
話が少し先走ってしまいました(笑)。あらためて、アメリカでの暮らしについて聞かせてください。ドゥルー大学のあるマディソンですが、どんな環境でしょうか?
八十田さんこぢんまりした街です。人口が少なくて、みんながお互いを知っている感じです。裕福な家庭が多いからかもしれませんが、治安が良くて、日本にいるときよりも安全に気を遣うことがありません。荷物を置き忘れても、同じ場所にそのまま置いてあります。想像していたアメリカと違うな、とよく思います。
UPAAいい意味で意外ですね。大学のほうはいかがですか。
八十田さんクラスは多くても20~30人くらいです。私が履修したクラスは、ほとんどの場合10人くらいだったので、自発的に自分の意見を言いやすい雰囲気でした。
UPAA科目はどんなものを選択したんですか?
八十田さん必修科目を中心にアドバイザーの先生が決めてくれたのですが、英語の授業を2科目と、Afro-Fusionのダンスクラス、American Pop Culture、ダンスクラス、Theatreなどのクラスを取りました。
UPAA面白そうです!どんなことを教わるんですか?
八十田さんAfro-Fusionはダンスにまつわるさまざまなテーマを学ぶクラスで、アフリカ文化の中でダンスがどのように発展してきたかを学びました。American Pop Cultureのクラスは、音楽、ファッション、詩、雑誌といったポップ・カルチャーの中に見られる風潮や傾向、社会現象の影響について学ぶクラスです。戦争などの影響がどのように作品に反映されているのか、実例を通して学びました。あと、これはニューヨークが近いドゥルー大学ならではだと思うのですが、ダンスのクラスでは、本場のブロードウェイの先生が来て教えてくれるんです。これは本当にいいな、と思いました。
UPAA苦戦した科目はありますか?
八十田さんReadingの授業は、教科書を使ったものが多かったですね。授業までに次の単元の文章を読んで問題を解いておく、とか。Writingの授業では、1か月ほどかけてエッセーを完成させる、というものがありました。1週目はテーマを選んで、次の週は各パラグラフで何を書くのか考えて、さらに次の週は下書きを書いてくる、といった感じで少しずつ完成させていく宿題です。少しずつ、と言っても決して楽ではありませんでしたが。エッセーを書いていると、自分のライティングスキルが上がっていくのが実感できます。
UPAAどんなテーマでレポートを書くのですか?
八十田さん
現代劇、ミュージカル、古代演劇など、テーマとなる台本はさまざまです。劇中に出てくるシンボルが、時代をどのように映し出しているかを考察したり、人種差別を描いた作品について、客観的な事実をふまえたうえで自分の意見を述べたり、といった感じです。
古代演劇でエディプス王の台本を読んだときは、英語も現代語ではなくて、内容を理解するのにとても時間がかかりましたね。友人にあらすじを説明してもらったりして、随分助けてもらいました。それでもわからない部分は、インターネットで現代語訳を探したりして対応しました。
日本語でも作品の解釈は難しいのに……。
八十田さん毎週火曜日がレポートの提出日だったので、土日に台本を読んで、月曜日にレポート作成、火曜日に提出、の繰り返しでした。台本以外にも読まなくてはいけないReading Assignmentがあったので、1学期の間に15冊ぐらいの本を読みました。
UPAAまさに勉強漬けですね。
八十田さん学期中は夜中の3時頃まで課題に取り組んだりしていました。毎日寝不足です。試験ではなく、プレゼンテーションとレポートで評価されるクラスだったので必死でした。寮のラウンジで勉強することが多かったのですが、他の寮生たちもそこに集まって勉強しているんです。わからないことをネイティブの友人に質問できるので、とても助かりました。
UPAAお友達、頼りになりますね。こういうところが寮の良さですね。
八十田さん
とてもやさしいですし、私が想像していたアメリカ人のイメージよりもずっと真面目です。それに、みんな自分の考えや意見を持っています。日本ではあまり政治の話はしませんが、こちらでは自分がどのように思うか、よく話します。多数派の意見=正しいというわけではなくて、お互いの意見を良く聞いて、異なる意見を持つ人を尊重していると思います。「そういう考えもあるよね」という感じです。自分自身の世界観を持っているからでしょうか。そういえばこちらに来て驚いたのですが、初めてあった人たちから「私のことは、he/she/theyで呼んで」などと言われたことが印象的でした。
あとは、みんな時間の使い方が上手ですね。生活にメリハリをつけています。勉強するときは一生懸命勉強するし、遊ぶときはとことん遊ぶという感じです。
よかったです。ちゃんと息抜きする時間もあるんですね。
八十田さん金曜日が終わるとようやく週末が始まります。映画を見たり、テレビを見たり。みんなと一緒によく遊びました。土曜日いっぱいは息抜きをして、日曜日は翌週の準備をしたり、課題に取り組んだり、という感じでしたね。
お友達と出かけたりもしましたか?
八十田さん感謝祭の時は、友人が家に招待してくれましたし、クリスマス休暇中は他の留学生たちとボストンに出かけたりしました。クリスマスマーケットにも行きましたよ。大学の周辺は自然の多い地域なんですが、氷の張った池で靴のままスケートしたり、雪遊びをしたりしました。
これまでと全く異なる環境で、忙しい1年だったかと思います。振り返ってみていかがですか?
八十田さんとにかく「充実した1年」の一言です。いろんな意味で自由ですし、生き方が楽だな、と感じました。もちろん環境に慣れるのに必死で、目の前のことをこなすだけで精いっぱいだったのですが、来年は少し余裕もできると思いますし、将来のことも少しずつ考えていきたいですね。勉強以外のことにもチャレンジできるといいですね。アカペラクラブにも興味があるので、入ってみたいと思っています。
UPAA将来のことは、何かもうビジョンをお持ちなんですか?
八十田さん
ここ1年は、忙しくてあまり考える時間もなかったのですが、心理学にも興味があるので Theatre Artsと並行して二重専攻、もしくは副専攻にしようかな、と考えています。一つの強みにできればいいな、と思って。
それから、他大学への編入にも興味があります。もちろん経済的な問題はありますが、ロンドン留学のプログラムもあるので、世界観を広げるためにもチャレンジしてみてもいいかな、と。ドゥルーはリベラルアーツの大学なので「将来自分がどのようにしたいか」を考えるプログラムが充実していて、自分から動けばいろいろなことができる環境が整っています。8月中旬には大学に戻りますが、将来のことも含めて、一年よく考えたいと思います。来年度の寮はシングルルームにしたので、じっくり考えられる時間も増えると思いますし。
2年目も新しい経験がたくさんできそうですね。
八十田さんええ、今年は日本に帰国しましたが、アメリカでは多様な経験ができるので、早く戻りたいとも思います。日本を出ると本当にいろんな人がいることを実感しますし、世界が広がります。アメリカの大学に進学して、本当に良かったです。
UPAA最後にアドバイスを
八十田さん進学を決めているならば、英語力を身に着けることはもちろんですが、外国人との会話に慣れておくと良いと思います。私自身は外国人への恐怖心はありませんでしたが、おじけづくと聞き取りにくくなると思うからです。それと第一印象が大切なので「笑顔」はとても大事。あとは、とりあえず、話すこと。それが友人の輪を広げるコツかな、と思います。
UPAA八十田さん、今日はありがとうございました。