市江悠さん
専攻:Biomedical Sciences
UPAA事務局によるインタビューシリーズ。今回は、アラバマ大学バーミンハム(UAB)に進学された、市江悠さんにお話を伺います。どうしても海外の大学で学びたい、という強い思いをもって渡米した市江さん。コロナ禍の最中、アメリカ南部の街バーミンハムという日本人がそれほど多くない地域という環境で、どのような1年を過ごされたのでしょうか。「人見知りでおとなしそう」に見られるタイプとのことですが、お話の端々に意思の強さが感じられます。「海外進学に興味があるけれど、ちょっと不安」という方も、ぜひご一読ください。
市江悠さん プロフィール
目次
ルームメイトとの距離を近づけてくれた寮生活。 対面でもオンラインでも、変わらない授業のクオリティー。 基礎知識を持って入学できたのはアドバンテージだと思います。 周りがどう思うのかではなく、自分がどうしたいか。それでは市江さん、よろしくお願いいたします。
市江さんよろしくお願いします。
UPAA大学のあるアラバマ州バーミンハムは、アメリカ南東部の都市ですね。実際に暮らしてみていかがですか? どんな街でしょうか。
市江さんフレンドリーでゆったりしていて、いわゆる南部らしいおおらかな雰囲気の街ですね。大学があるのは自然が豊かな地域で、キャンパスから一歩外に出ると車社会です。ドライブスルーの文化が発達していて、銀行でも薬局でも、車から降りることなく用事を済ませられるようになっています。自分から感染しやすい場所に出向かなければ、コロナのこともあまり気にならないくらいでした。
UPAA大学生活にはもう慣れましたか?
市江さんええ、少しずつですが慣れてきました。ホームシックにはならないタイプのようです。
UPAA順応性が高いのかもしれませんね。滞在先は寮ですよね?
市江さんはい、キャンパスのなかに学生寮が5~6棟あって、そのうち3つが1年生の寮、残りが上級生の寮になっています。UABの1年生は必ず寮に入らなければならない、というルールがあるんですよ。アメリカ人でも、大学の近くに住んでいる人でも、全員入寮しないといけません。
UPAAつまり、留学生同士でルームメイトになるとも限らない、というわけですね。市江さんの場合はいかがでしたか?
市江さん4人部屋だったのですが、ルームメイトはみんなアメリカ人でした。他の大学の話を聞くと、寮にいるのは留学生ばかりで、現地の友だちがなかなかできない、といったこともあるらしいですね。私の場合はコロナの影響で授業の半分がオンラインでしたし、なかなか外出できなかったこともあって、いつもルームメイトと一緒だったので、とても仲良くなれましたよ。
UPAA楽しんでいらっしゃるようで良かったです。でも、なかには環境にうまく馴染めない人もいますよね?
市江さんええ。ホームシックになって、殻に閉じこもってしまう人もいるようです。でも、そういう時はアドバイザーが精神的なケアをしてくれます。とても親切な方で、学生に「一人じゃないんだよ」と声をかけたりして、留学生の苦労を親身になって理解してくれていると感じました。
UPAA市江さんは良い友達に恵まれていたようで、よかったです。
市江さん最後のほうは交代でご飯を作りあったりしていました。主に食費を節約するためですが、それも楽しかったです。
UPAA食は人の距離を近づけてくれますよね。市江さんはどんな料理をつくったのですか?
市江さん白米を炊いて、カレーライスを振舞いました。日本人の先輩から日本製の炊飯器を譲ってもらえたので。カレーのルーは、友人の車に乗せてもらってアジアンマーケットで購入しました。大好評で、その後もよくリクエストされるようになったんですよ。
UPAA日本のカレーライスはアメリカ人の味覚にも合うんですね。ところで、学食は利用されなかったのですか?
市江さん初めの頃は、ルームメイトと一緒にキャンパス内のファストフードにもよく行きました。もちろん学食もあるのですが、こちらはあまり口に合わなくて。ミールプランの代金を1年分前払いしておくと、学生カードをスキャンするだけで食事できるので、その点は便利でしたね。キャンパス内にはほかにもいくつかレストランがありました。チェーン店などは特に問題なく食べられるのですが、やっぱり最後は日本の味が恋しくなりますね。
それで自炊をはじめたのですね。話が少し変わりますが、大学のコロナ対策はいかがでしたか?
市江さんしっかりしていました。キャンパス内はマスクの着用が義務付けられていますし、帰省などでキャンパスを離れる場合は、戻ってくるときに必ず陰性証明を提出する必要があります。PCR検査も大学内で受けられますし、学生だと費用がかからないんです。
UPAA無料なら、いつでも気軽に検査が受けられますね。
市江さんはい。UABではコロナの研究を行っていて、学内でも調査をしているんです。私も何度か対象に選ばれました。ほかにも、クラスの学生に感染者が出たら通知が来たり、教室はソーシャルディスタンスをとった席配分になっていたり、しっかりと対策が取られていたので安心して授業を受けることができています。
UPAA1年目は半分オンラインでしたしね。
市江さん
Zoomを使った授業が半分、対面の授業が半分ですね。アメリカ人の学生と一緒に受けるCore Academic Courseの授業は週に3回で、水曜日が対面、月金がZoomでした。留学生向けのAcademic Englishという授業は週に2回で、6名くらいの対面授業でした。2年生からはオンライン授業がなくなり、完全に対面授業になっています。
※インタビューは2021年11月に実施
実際にオンライン授業を受けてみて、どんな印象ですか?
市江さん「オンライン授業と対面授業のクオリティーは変わらない」という話をよく聞くと思いますが、その通りだと思います。私は運よくアメリカに来られたので、現地で両方の授業を体験できたのですが、本当にそう感じました。もちろん、時差やオンライン授業ならではの不便さはあるのですが、一方でオンライン授業ならではのメリットも感じています。
UPAAUABでは、コロナ以前からオンライン授業の取り組みが進んでいたようですね。
市江さん授業のオンライン版のようなものがあって、履修した授業はすべて学習管理システムの「CANVAS」に表示されるようになっているんです。授業ごとに分かれていて、とても使いやすいですよ。
UPAAそういえば、他の大学に進学された方もCANVASを使っていました。
市江さんスマホ用のアプリもあって、いつでも課題や成績を確認できるんです。カレンダーは課題の締切も同期されていて、期日が近づくと通知が来ます。スケジュール管理の面でも便利でしたね。
システム面の心配はほとんどなさそうですね。先生方の対応はいかがでしたか?
市江さんもちろん先生にもよりますが、平日にメールで質問すると次の日には返事をもらえました。疑問点をタイムラグなく解消できたと思います。留学生向けの授業を担当されている先生方はとてもやさしくて、どのように対応したらよいかを熟知している様子でした。
授業の内容についても、少し詳しく聞かせてください。たとえば英語の授業では、どんなことを学ぶのでしょうか?
市江さん留学生向けの英語の授業で教わったのは、主にネイティブの学生と一緒に授業を受けるために必要なスキルですね。エッセーを書く時の引用方法や、名前を記載する時のルール、教授の話を聞きながら英語でノートを取る練習など。授業で使えるプレゼンテーションスキルも教えてもらいました。
UPAA市江さんは、高校時代から英語が得意だったのですか?
市江さん国公立大学と併願予定だったので、英語を重点的に勉強していた、というわけではないんです。高校では、国内受験に必要な科目をまんべんなく勉強していました。受験勉強としての英語は、構文の暗記に苦労したので、あまり得意な方ではありませんでしたが、両親が英語に触れる機会をたくさん与えてくれたのが良かったのかもしれません。
UPAA中学生の時には、カナダ留学をされたとか。
市江さんはい、中学3年生の時に一年間カナダに留学をしました。小学5年生の時には、ルクセンブルクのキャンプに参加したこともあります。まだ小学生だったのに、すごいですよね。
UPAAそういう経験が、海外大学への関心につながっていったのですね。海外進学に特化した勉強はしなかった、とのことですが、英語の勉強で工夫されていたことはありませんか?
市江さん私の高校では、「CollegePathway」という英語のeラーニングが導入されていて、一週間に数時間ほど授業が割り当てられていました。授業中はPCを使ってCollegePathwayを利用しながら英語学習を行うのですが、スマホでも使えるので通学中に電車の中で勉強している生徒もいました。学校で用意された課題以外にも、英検やTOEIC、TOEFLなどのコースもあって、わざわざ参考書を買う必要もないくらいでした。
ICTはうまく使うと、スキマ時間で効率よく勉強できますよね。
さて、話を大学に戻しましょう。英語の授業ですが、課題はどんなものがありましたか?
Readingの授業は、教科書を使ったものが多かったですね。授業までに次の単元の文章を読んで問題を解いておく、とか。Writingの授業では、1か月ほどかけてエッセーを完成させる、というものがありました。1週目はテーマを選んで、次の週は各パラグラフで何を書くのか考えて、さらに次の週は下書きを書いてくる、といった感じで少しずつ完成させていく宿題です。少しずつ、と言っても決して楽ではありませんでしたが。エッセーを書いていると、自分のライティングスキルが上がっていくのが実感できます。
英語以外のお話も伺っていきましょう。Core Academic Courseではどんな科目を選択されたのですか?
市江さん化学、生物、数学です。内容自体は高校時代に学んだこととほとんど同じなのですが、教え方や解き方が違います。すでに知っていることなのに、新鮮でしたね。楽しく授業を受けられました。
UPAA余裕があるからこそ、その違いを楽しめるのかもしれませんね。
市江さんそうですね。基礎知識を持って入学できたのはアドバンテージだと思います。化学と物理は受験勉強の知識がかなり役に立ちました。英語で復習するような感じですね。まだ2年生だから、ということもあるかもしれませんが。
UPAA日本の大学用に受験勉強をした甲斐がありましたね。
市江さん受験生の時は「アメリカの大学に行きたいのに、なぜここまで国内受験の勉強をしなければいけないのか」と思っていましたが、いまでは両親と約束した国公立の受験勉強が役に立っていると痛感しています。
UPAA約束、というと?
市江さん実は当初、両親はアメリカ進学に反対で、「国公立大学に合格する」ことを条件に進学を認めてもらったんです。まわり道のようでしたが、国内大学受験のための英語学習は、いまの英語スキルの基礎になっていると感じています。
UPAAムダな勉強なんてありませんよね。
市江さんええ。でも、生物の授業は受験勉強のアドバンテージが生かせない部分もあるんですよね。
UPAAなぜでしょうか?
市江さん化学と数学は元素記号や数字を使うので、言葉が違ってもそれほど影響がないのですが、生物は単語が分からないと理解できないんです。ときどき英語の授業のように感じられる時もあります。
UPAA日本語で覚えたことを、もう一度英語で覚えなおさないといけないのですね。
市江さんはい。高校の生物の教科書を持ってきたので、英語で理解できないときは高校の教科書を見ながら取り組みました。医療系の分野を専攻しているので、今後は解剖の実験などもありますし、頑張りたいです。
UPAA2年生になって、いよいよ専門分野の勉強がはじまるのですね。
市江さんアメリカの大学は広く浅く学ぶのが一般的です。Core Curriculumといって、学部に直接かかわりがない歴史や心理学などの科目も必修なので、1年生の間は専門分野以外の授業がメインでした。いよいよ本格的な授業が始まります。
UPAA履修登録はスムーズにできましたか?
市江さんIYOのときはアドバイザーが履修登録を手伝ってくれましたが、2年目は自分で登録しました。日本の大学と違って選択科目も多いですし、同じ授業が一週間で何回も行われるので、組み合わせはほぼ無限大です。
UPAA目移りしそうですね。
市江さん昼間から夕方にかけての授業が一番人気で、早朝と金曜日の夜の授業は特に人気がありません。出遅れると一学期まるごと過酷なスケジュールに振り回されることになるので要注意です。
UPAA履修科目はどんな基準で選ぶのですか?
市江さん基本的には卒業要件となる必修科目から選び、次に選択科目を選びます。今学期は生物、化学の他に数学を履修しているので、来学期は物理の履修を考えています。授業のスケジュール、成績の評価基準、教科書の購入方法、reading assignment、テスト・レポート提出時期など、授業に関する情報はすべてシラバスに記載されています。どの教授も初回の授業までにシラバスをアップロードしてくれるので、一通り目を通しておく必要があります。シラバスは本当に重要です。
すべてきちんと明文化されているのですね。いろいろな人が集まる海外の大学らしいです。
市江さん試験もそうなのですが、アメリカの大学はルールが徹底されていて、仕組みがしっかりしているな、と感じました。
UPAA試験もオンライン、オフライン両方で実施されたのですか?
市江さんええ、オンラインの場合は、事前にパソコンにアプリをダウンロードしておきます。テストを始める前に身分証明、それから机の上やまわりの様子をカメラに映します。
UPAA不正対策ですね。
市江さん受験中は他のWebサイトも開けないようになっていました。カメラの顔認識から外れると「顔認識を確認できません。カメラを確認してください」というメッセージが表示されます。メッセージの表示回数も記録されていて、先生は回答だけでなく、その記録も確認していたようです。制限時間になると強制終了です。
UPAAオフラインの試験はどうでしたか?
市江さん教室で受けるペーパーテストの場合は、同じ試験でも複数の問題用紙が用意されていました。いまはソーシャルディスタンスがなくなって、テストのときは教室に100名以上の学生が集まります。席間が近くなってしまうので、隣同士で同じ問題用紙にならないよう配慮されていました。
今後の目標を聞かせていただけますか?
市江さん将来は、医療系の仕事に従事したいと考えています。進学先にUABを選んだのも、大学に病院があることや、コロナについて最先端の研究を行っていることなど、医療系の分野に力を入れている点に魅力を感じていたので。就職も、アメリカか日本のどちらかで検討しています。
UPAAそれでは最後に、このインタビューを読んでいる海外進学希望者にメッセージをお願いします。
市江さん
周りがどう思うのかではなく、自分がどうしたいか、が大切です。金銭面や色々なことがあり大変だと思いますが、自分が決めた道であれば多少辛くても頑張れると思います。
他人から進学先を勧められたり、家族の意見もあったりするかもしれませんが、その場所に行って経験するのは自分自身です。やる気を出せば、自分の行動次第でもっと充実した経験ができると思います。
私は人見知りでおとなしそうだと思われるタイプです。でも、アラバマ州には日本人が少ないせいか、私が日本人だということで興味を持ってくれる友達もいて、とても楽しく過ごせています。英語でのコミュニケーションは大変だと思いますが、近づいてきてくれる人は日本の文化にも興味を持ってくれていると思います。初めは、そんな風に友達を増やしていくのもいいと思います。
市江さん、今日はありがとうございました。
市江さんありがとうございました。