櫻間郁佳さん
専攻:音響工学
UPAA事務局によるインタビューシリーズ。今回は、クイーンズ大学ベルファスト(QUB)に進学された、櫻間郁佳さんにお話を伺います。櫻間さんは、大学の留学生過程であるインターナショナル・ファウンデーション(FDN)を経て、現在は大学1年生。COVID-19の影響で大学が閉鎖されてしまったためご帰国中ですが、これまでのFDNでの経験、進学後の学び、現在の状況について、貴重な体験談をお届けします。櫻間さんは国内大学受験の準備もしていた「グローバル併願」経験者ですので、そのあたりについてもお話を伺っていきたいと思います。
櫻間郁佳さん プロフィール
それでは櫻間さん、本日はよろしくお願いいたします。
櫻間さんよろしくお願いします。
UPAAあいにくCOVID-19の影響で現在は帰国中とのことですが、2年弱暮らしてみて、ベルファストの街はいかがでしたか?
櫻間さんベルファストは北アイルランドの首都で、人口26万人程のこぢんまりとした街です。生活に必要なものがすべて徒歩圏内にまとまっていて、とても便利です。街の雰囲気も穏やかで、こちらにきて2年弱になりますが、今のところ差別を受けたこともありません。
ベルファスト中心部にある街のシンボル「シティホール」。 UPAAまずは、櫻間さんが進学されたQUBのインターナショナル・ファンデーションについてお話を聞かせてください。クラスにはどんな人たちが集まっているのでしょうか?
櫻間さん
韓国、中国、シンガポール、マレーシア、インドネシアなどのアジア系や、オマーンなどの中東系の学生がいました。シンガポールやマレーシアの人はみんな親切ですね。
英語のクラスは2つに分かれていて、シンガポールやマレーシアといった英語ネイティブの学生を中心としたクラスと、ESL(English as Second Language)圏からの学生を中心としたクラスがあります。男女比はフィフティ・フィフティですが、理系のコースは男子の比率がやや高かったです。全員留学生なので、先生はわかりやすく話してくれました。先生にもよりますが、英語の先生は学生を指名して答えさせることが多かったです。
授業内容はいかがでしょうか。どんな科目を履修しましたか?
櫻間さん数学と英語が必修科目で、そのほかに専門科目を2科目履修します。専門科目は、Physics、Chemistry、Biology、Further Mathematicsの4科目でした。私は、大学で専攻する音響工学に関連性のあるPhysicsとFurther Mathematicsを受講しました。
“Further Mathematics”は、耳慣れない言葉ですね。日本の数学の授業でいうとどれくらいのレベルでしょうか。
櫻間さん内容としては日本の高校レベルです。数学IIIの内容を含みますが、数学IIまで学習していれば十分理解できます。センター試験の内容を理解できていれば、授業にはついていけると思います。私以外の日本人も、数学についてはまったく問題ありませんでした。
UPAAPhysicsについてはいかがでしたか?
櫻間さん
1学期目では力学、2学期目では電気について学びました。どちらもセンター試験レベルです。力学については高校で物理基礎を学んでいたので、その知識が役に立ちました。電気については物理IIの内容が含まれるので、もう少し大変かもしれません。高校時代に物理を取らなかった学生がいたのですが、その人はついていくのに苦労していたようです。
私の場合、大変だったのは講義の内容よりも英語の専門用語です。あたり前ですが、テストの文章問題はすべて英文なので、内容の把握や記述式回答にはだいぶ手こずりました。
授業ではもちろん、課題が出るんですよね。
櫻間さん
そうですね。Further Mathematicsでは評価に関わる課題が年に2度出題されましたし、Physicsも年2回のレポート提出がありました。4時間ほどで終了する実験を行い、それについてのレポートを書く宿題もありましたね。
課題のスケジュールはさまざまで、翌日に提出しなければならないものや、1週間程度の期限があるもの、3か月かけて仕上げる長期の課題もありました。
英語でのレポート作成は大変そうですね。書き方にもポイントやルールがあったと思いますが、どうやって学ばれたのでしょうか。
櫻間さん
レポートの書き方は、英語の授業で教わりました。英語の授業は他の専門科目の授業とリンクしているんです。たとえば、Physicsの授業でレポートが課されるなら、その前に英語の授業でレポートの書き方を学ぶ、といった具合です。
※英語教授法では、CLIL(Content and Language Integrated Learning)と呼ばれる手法
レポートを書く時は、1つのレポートにつき10冊以上の参考文献を読むようにと言われていて、文献探しや読み込む作業だけでも大変でした。ただ、文献の読み込み方については、英語の授業で「本のすべてを読むのではなく、概要をまず読み、本の内容を把握する」「必要な箇所だけ探す」などのポイントを教わっていたので、実際にレポートを書く時もうまく生かせたと思います。ほかにも、参考文献の書き方や客観的に描くために一人称「I」を使わないなどのルール、図書館を利用したリサーチメソッドなどについても教わりました。
UPAAポイントを押さえてすぐに生かせるのはさすがですね。授業によってはグループでの活動もあったのでしょうか。
櫻間さんPhysicsの授業では、3人一組のグループプロジェクトがありました。授業では学ばないことを学生が自分たちで調べ、まとめたことをクラスで発表する、というものです。学生が先生役になるイメージですね。
UPAA外国で他人との共同作業となると、どんな人と組むのかも大事ですよね。グループ分けはどのように決めるのでしょうか。
櫻間さん好きな人同士でグループを組んでも良いのですが、どこにも入れない場合は先生に申し出て、グループを決めてもらうことも可能です。
UPAAトラブルはありませんでしたか?
櫻間さん幸いにも私のグループではありませんでしたが、ほかのグループではメンバーが学校に来ないこともあったようです。プロジェクト終了後には、学生同士のevaluationがあると事前に説明があったのですが……。
グループプロジェクトは、リサーチの重複を避けるためにも、しっかり情報共有することが大切です。連携を密にとって、それぞれが内容をアップデートしていくことも重要だと思いました。
UPAA扱うテーマには、どんなものがあるのでしょうか。
櫻間さん一例ですが、「atomic fusion」についてのプロジェクトがありました。大まかな原理、どのように応用されているか、などトピック全体を網羅し、リサーチを行い、発表しました。
UPAAその際も、やはり英語の授業と連携していたのでしょうか。
櫻間さんはい。この時は、プレゼンテーションやグループプロジェクトの進め方などを事前に学びました。発表のしかたについては、プレゼンテーションの組み立て方、わかりやすく説明すること、ジェスチャー、アイコンタクトなどについて教わりました。
UPAA先ほど学生同士でのevaluationのお話がありましたが、先生からの評価についてはいかがですか。評価はどのように行われるのでしょうか。
櫻間さんグループプロジェクトの場合、関係する先生が揃ってプレゼンテーションに出席します。先ほどのプロジェクトなら、Physicsの先生と英語の先生です。実際のプレゼンテーションを見ながら、英語に関することは英語の先生が評価し、内容については専門科目の先生が評価します。質疑は先生・学生の両方から受けます。ほかの学生の発表を見ていると、ジェスチャーが大げさで、格好つけているなぁ、なんて思ったりしていました。
UPAA成績はいかがでしたか。
櫻間さん専門科目はA+だったのですが、英語だけAで残念でした。
いえいえ、素晴らしい成績だと思います。さて、閑話休題で日常生活についてもお話をうかがいましょう。休日などはどのように過ごしていたのですか。
櫻間さんFDNの同じクラスの人と、一緒に食事にいったり、友達のところで遊んだり。旅行に行ったりもしましたね。
UPAA当初は学生寮に入っておられましたよね。寮での暮らしはいかがでしたか。
櫻間さん寮の部屋割りは当たり外れがありますね。私は外れでした。部屋がキッチンの隣だったのですが、同じ階の住人にパーティー好きの学生がいて、週に3日はパーティーをしていたと思います。うるさいですし、翌朝はキッチンも散らかっていますし。ルームチェンジを申し出られたのですが、引っ越しが面倒で結局しませんでした。同じ寮内でも、別の部屋はそうでもなかったようです。その後、寮を出てフラットに移ったので、問題なく過ごせるようになりました。
UPAA振り返ってみて、FDNの良い点はどんなところでしょうか。
櫻間さん留学生という同じ境遇の人が集まっているところですね。お互いに恥ずかしさがありません。英語の授業内容も、大学1年に入学するまでの準備期間として最適でした。WritingやSpeakingなど、もしもいきなり大学1年生から入学していたら、戸惑うことが多かったと思います。1クラスが12~3人の少人数制だったのもよかったですね。先生も学生もお互いに目が行き届いて、ちょうどよい規模感でした。
指折りの観光地として知られる「モハーの断崖」はベルファスト郊外にある。2019年6月でFDNを終え、2019年の9月からは大学1年に進学されました。だいぶ環境が変わったのではないでしょうか。
櫻間さんクラスにアジア人が少なくなって、友人を作るのが難しくなりましたね。1クラスは40人程で、イギリス人、アイルランド人が多い印象です。音楽のクラスも履修していて、男女比はフィフティ・フィフティです。Engineeringのクラスは、やはり男性が多めです。私の専攻のAudio Engineeringは現在5人です。工学系のクラスでは、2人1組での実験などもあります。
UPAA課題の量や日々の忙しさは変わりましたか。
櫻間さん
FDNの時と変わらないぐらいです。アルバイトもできるし、自由時間も持てるので、課題がそれほど多いとは思いません。課題は授業の合間の空き時間で取り組むことが多いですね。提出期限を休みの前に設定されることが多いので、直前は立て込んで大変になることもありますが、その分ゆっくり休めます。
レポートの課題は、一般的にイギリス人学生が24時間かければこなせる量のものですが、私はその2倍はかかると思います。提出日が重なることもありますが、それは事前に分かっていることなので、大事なのはタイムマネジメントですね。ぎりぎりになってから取り組みたくないので、早めに取りかかって終えるようにしています。提出日前に先生に見せて意見を聞いたり、添削してもらったりして、再度取り組むこともあります。
海外進学を考える人は、自己管理もきちんとできる必要がありますね。一日の勉強時間はどれくらいでしょうか。
櫻間さん勉強量としては、一日2-3時間ぐらいだと思います。週末は用事が入って勉強できないこともあります。私の場合、授業は毎日ありますが、もちろんそうでない人もいますよ。
学習の内容や進め方について、困ったときにはどうされていますか。誰か相談する相手がいるのでしょうか。
櫻間さんAcademic Adviserがいて、年に2、3回面談があります。私のアドバイザーは音楽の教授で日本人ですが、ベルファストに長く暮らしているので、英語で話すこともあります。個人面談ではクラス内でもっと質問するように言われました。アドバイザーの面談以外に、授業などでわからないことがある時は、先生に個人的に聞きに行ったり、メールで質問したりしています。
UPAAグループプロジェクトのお話も伺いましょう。FDNと比べて、より専門性が高くなったのではないでしょうか。
櫻間さんSound Recording and Productionの授業の中で2~3か月かけて取り組むグループプロジェクトがありました。クラスメイトが声をかけてくれて、4人1組、女性ばかりのグループになりました。内容としては、5分間のラジオ番組を作るもので、トピックは自由です。グループの学生にミュージシャンの知り合いがいたので、その人についての番組を構成することにしました。完成後にはプレゼンテーションもありましたよ。このプロジェクトでは、グループにリーダー格の学生がいて、彼女がまとめ役を引き受けてくれました。
UPAAここまでは順調でしたが、現在はCOVID-19の影響で帰国中です。これまでの経緯を教えてください。
櫻間さん感染者が一人出て、2020年3月18日付けで大学が閉鎖されました。3月22日に帰国し、その後はオンライン授業を受けています。先生がアップロードした動画やパワーポイントを視聴するもので、ライブストリーミングではありません。視聴時期の制限はなく、いつでも見られるようになっています。オンライン授業はオプションなので、受ける人、受けない人で差がつくと思います。受けない人は成績が下がると思います。
UPAA専攻上、実験や実技を伴う授業もあると思います。どのように対応しているのでしょうか。
櫻間さんロボットの授業では本来、走るロボットを製作することになっていたのですが、成果物の動画を撮って提出することになりました。ただ、機材・部品などの入手には限界もあり、不完全な状態で終わってしまいました。実現できなかった部分については「実際のものはこういうものになります」ということをレポートに書いて、代用することになりました。
教える側も、学ぶ側も手探りの状況といったところでしょうか。最後に、大学受験についてご意見を聞かせてください。櫻間さんは『グローバル併願』という形で国内大学受験の準備も同時に進めていたわけですが、この経験の良かったところは、どんなところでしょうか。
櫻間さん日本の高校生は受験勉強で一日中勉強していますよね。国立大学の二次試験を受ける場合、理系分野は科目も多いし、幅広く勉強します。イギリスの大学生活でも学ぶことは多いですが、その状況に無理なく適応できたのは、日本の受験勉強で学習量の多さに慣れていたおかげだと思います。私は国立大学の二次試験に向けて物理の勉強に力を入れていたのですが、その知識も大学で役に立っていると感じます。
UPAAこれから海外進学、グローバル併願をめざす後輩たちに、メッセージをお願いします。
櫻間さんいろいろと不安があると思いますが、日本で大学受験の勉強をしていれば、充分授業についていけます。英語で専門用語が分かれば、さらに安心ですね。特にBiologyについては覚えることが多いと思います。がんばってください!
夜のキャンパス。静かに学生たちの帰りを待っている。インタビュー後に、うれしいお知らせが届きました。大学1年をトップで修了。見事に2つの奨学金(QUEEN`S FOUNDATION SCHOLORSHIP for MUSIC、ASHBY PRIZE)を授与されたとのことです。櫻間さん、おめでとうございます!